【授業事例27】
情報の科学、やりませんか?
--中堅校でもできる「情報の科学」のポイントは「できることを理解させること」
東京都立立川高校 佐藤義弘先生
学習指導要領には「できるようになる」とは書かれていない
昨年度(2013年度)から新学習指導要領が実施されて、昨年度の教科書発行部数では「社会と情報」が83%、「情報の科学」17%となっています。旧学習指導要領では、「情報A」72%、「情報B」11%、「情報C」17%でしたから、「情報B」の後継とされる「情報の科学」が増えているとも言えますが、まだ「社会と情報」の比率が高い状況です。
「『情報の科学』は難しいから…」という声を聞きますが、適切な目標を定め、教材を工夫すれば、中堅校でも「情報の科学」学ばせることができると思います。私が昨年度勤務していた、いわゆる中堅高校での実践例とともに、紹介していきたいと思います。
「情報の科学」の単元で生徒にとって難しいと考えられるのは、「プログラミング」「データベース」「モデル化とシミュレーション」の3つです。しかし、他の学習内容とのバランスを考えると、この3つにあまり時間をかけることはできません。そのため、「プログラミングができるようになる」「データベースが組めるようになる」ことを目標にするのは無理だな、と考えました。
そこで学習指導要領を改めて読んでみると、「情報の科学」の目標は、『情報社会を支える情報技術の役割や影響を理解させるとともに、情報と情報技術を問題の発見と解決に効果的に活用するための科学的な考え方を習得させ、情報社会の発展に主体的に寄与する能力と態度を育てる』とあります。つまり、学習指導要領には「できるようになる」とは書かれていないのですね。「理解させる」というのであれば、目標の置き方を「できることを理解する」とすればよいのではないか、と考えたのです。
先ほどの「プログラミング」「データベース」「モデル化とシミュレーション」について、それぞれの目標の置き方と実践例をご紹介します。
プログラミング=「プログラミングでプログラムが作られていることを理解する」
プログラミングでは、「プログラミングができるようにする」というよりも、「プログラミングでプログラムが作られていることを理解する」ということにしました。その上でプログラミングを体験し、アルゴリズム=フローチャートを追えるようにするのです。
プログラミング言語は、ドリトルで行いました。ドリトルのいいところは、日本語でプログラミングができて、変数の宣言が必要ないこと、半角全角や表記揺れに寛容で、「プログラミングとは何か」を学ぶのに好都合です。実践例もたくさんありますので、ネットで検索してみてください。
ドリトルのHP→ http://dolittle.eplang.jp/
生徒は自分でフローチャートを書いてプログラミングしてみることで、「きちんと命令しなければ、コンピュータが気を利かしてくれるようなことはない」ということがわかります。私の授業では最初に『かめた』という亀を出してそれを操作していくことにしているのですが、時々、『かため』と打つ生徒がいて、「それじゃあ通じないないだろう」と。だいたい毎授業一回ずつくらいやる、定番の突っ込みです(笑)。
授業後のアンケートでは、「フローチャートとプログラミングの関係が理解できた」「フローチャートを元にプログラミングを描くことができた」に対して、ほとんど全員が「そう思う」「ややそう思う」と答えています。自由記述は、こんなことを書いています。私は授業で「難しいけど面白い」と言われるのが最高の褒め言葉だと思っています。生徒が「難しい」というのは頭を使わされたという感覚ですが、「難しい」と言わせたうえで「楽しい」と言わせたいと。「難しくてわからなかった」と言っている生徒もいますが、狙ったところは理解できたのではないかと思います。
データベース=「データベースで情報を整理することで情報を分析できる」
次は、データベースです。「データベースの設計・操作ができるように」なればいいですが、中堅校の生徒に正規化を教えるのは苦しい。ですからこれも、「データベースで情報を整理することで、情報を分析できる」ということを理解させよう、ということにしました。
学習ツールはsAccessを使いました。これも日本語で命令できますし、指導者用の資料やプリントもあります。
sAccess のHP→http://saccess.eplang.jp/
sAccessにはもともとデータが入っているので、データベースを作らなくても済みます。これは大事ですね。授業用にデータベース作ることから始めると、そこで挫けてしまいますから。さらに、sAccessは操作による変化が画面上に表示されるので、データがどのように管理されているかとか、関数を使うと知りたい情報だけを絞って取り出せることなど、データベース操作で何ができるということが非常によくわかります。
それでもやはり難しいという意見はありますが、「自分がコンピュータを操っているようで楽しかった」という感想がありました。ふだんは自分がコンピュータに操られているのですね。
また、「膨大なデータを蓄積、管理、取り出すことはできても、それをもとに考察したり行動したりするのは人間なので、コンピュータをうまく使って作業を効率化できたらいいなと思った」ということに気がついた生徒がいました。これはなかなか秀逸だと思います。
モデル化とシミュレーション=「問題解決にモデル化とシミュレーションという手法が使える」
モデル化とシミュレーションでは、「一般的な事象をモデル化する」というように大きく出るよりも、「問題解決にモデル化とシミュレーションという手法が使える」ということを理解させることを目標にしました。「モデル化とシミュレーション」はよく数値で例題を行いますが、私はパワーポイントを使って家具の配置のシミュレーションをしました。この課題でパワーポイントを使うことの利点は、はさみやのりの準備が必要なく、またパワーポイントのサイズ指定機能を使えば、正確なサイズのパーツ作成が可能なことです。
授業では、高校を卒業して就職した時にぎりぎり借りられる程度の、格安物件の図面を準備します。最初にモデル化とはどういうことかという話を30分ほどした後、まず部屋をモデル化して長方形の枠を作ります。パワーポイントの画面の中に描くためにどの程度の縮尺にすればよいかは、自分で決めなければなりません。自分で試してみて、1/20だと描けるということに気付かせます。家具は、地元にできた大手家具店の通販サイトに載っているものを使います。サイズをメモして、これも1/20でモデル化します。ここで作ったものを保存して、1時間目を終了します。
2時間目は、最初にシミュレーションの話をしてから、パワーポイントの移動や回転の機能を使って、家具を実際に配置してみます。そうすると、中には冷蔵庫が横向きで、回り込まないと開かないとか、シンクが出っ張っているのに端までぴっちり置いてしまって、棚の中のものが取り出せないとか、いろいろなことをやらかす生徒がいます(笑)。
配置ができたら、空いているところにコメント欄を作って、なぜこの配置にしたかということを書かせます。「朝、自然な光で目覚めたい」「寝転んでテレビが見たい」「ベッドから冷蔵庫を開けられるようにしたい」等など、いろいろなことを書いてきて面白かったです。
授業後のアンケートでは、全員がシミュレーションのいい点が理解できた、という回答でした。
ところが、次の時間にExcelで数値のシミュレーションを行ったら、感想はずいぶん違いました。「操作がわからない」とか、中学で習っているはずなのに「初めてExcelを使う」とか、シミュレーション以前にExcelそのもので引っかかってしまうのです。ですから、シミュレーション自体の重要性を知るためには、数値よりも図形での操作の方が有効だと思います。
ちなみに、パワーポイントの使い方の説明は5分くらいしかしません。「Ctrl + P」と「Ctrl + S」と「Ctrl +Z」くらいです。Wordも「Ctrl + P」と「Ctrl + Z」と「Ctrl +S」しか説明しません。要は、アプリケーションに依存しないアプリケーションの操作を説明する、ということにしています。
プログラミングを学校で多少やってできるようになっても、実際に必要な場面で違う言語だったら、自分で一からやり直さなければなりません。同様に、データベースもシミュレーションも、必要に迫られれば自分で勉強することになるでしょう。その時、今回目標に置いたようなことがわかっていれば、よりスムーズに学ぶことができます。学校で担保しなければいけないのはそこではないか、と考えたのです。
「問題解決」をどのように指導するかが課題
ただ、一方で何が困ったかといえば、「問題解決」が問題なのですね。中堅校で生徒による「問題発見」を狙うと、どうしても問題が発散してしまうのです。あるいは、「解決できない問題」が問題になってしまうということもあります。落としどころが見えないのですね。そうかといって、こちらで問題を決めてしまっては、問題解決にならない。それをどのように持って行くかということが難しいと思います。
◆私のサイト
http://hs-joho.net/hyt/13k/
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◆一例として、二進法の負の数と少数のワークシート(本日の配布資料)を掲載いたします。サイトにやり方が書いてありますので、ぜひやってみてください。