【授業事例4】
社会で通じるプレゼン技法を丁寧に教える
神奈川県立麻生総合高等学校 大石智広先生
(神奈川県高等学校教科研究会「情報部会」 第5回「情報の授業・実践事例報告会」より)
かつてはシステムエンジニア
私は今年で新規採用2年目になります。以前は、システムエンジニアやプロジェクトマネージャーとして、8年間で50社以上と仕事をしてきました。社会に出たときにどのようにコンピュータを使い、どのように仕事を進めているかという感覚をもっているのが私の武器だと思うので、その点を生かした授業をしていきたいと思っています。
私の社会経験から「これくらいできないと会社では通用しない」と感じる最低限のスキルを身につけさせることは、授業の目標の1つです。
1年生で「情報A」
本校の情報科目としては1年生全員の「情報A」、2・3年生の選択で「情報B」と「マルチメディア表現」があり、他にも商業科目として「情報処理」やワープロ検定向けの「商業技術」などがあります。
「情報A」の授業は私をメインに、非常勤講師の情報免許をもっている方と2人で担当しています。サブ教員として他教科の先生から応援いただくこともあり、授業によっては私もサブに回ることもあります。クラス規模は1年生8クラス(各35人)です。
来年度は1年次で「社会と情報」を全員が受講することになっているほか、意欲的に科目を増やして「情報の科学」「情報デザイン」なども開講していく予定です。
よい授業を真似て改善
私が授業作りで大切にしていることが3つあります。1つ目は、「TTP(=徹底的にパクる)」です。これはトリンプという下着会社の社長さんが言っている「良いものは徹底的に真似しよう」という考え方を指し、拝聴した他の先生の授業の良いところを取り入れて、少しずつ改善する形で進めています。
2つ目は「授業に魂を込める」。向かい合う生徒をいかに納得させられるか。3つ目は「ストーリー」。なぜこの場面でこのようにパソコンを使うのかという必然性を持たせたいと思っているので、物語性のある授業を心がけています。
1年間の授業は、「収集」→「処理」→「発信」で組み立てる
今回は1年次で全員が受講する「情報A」のお話をします。私の授業は年間を通じて、情報処理の3つの段階に従い、情報を集める「収集」、集めた情報を整理・加工する「処理」、そしてその「発信」の順番で進めています。
具体的な1年間の授業の流れは、まず「収集」としては、インターネットを使った情報収集を行っています。3.11の際のデマを素材に「デマを流さないためにはどうすればよいか」考えさせたり、ニュースを素材にメディアについて考えさせたりして、メディアリテラシーに関して教えています。
「処理」の部分は、話題になっている携帯ゲームのコンプガチャが何回でコンプ(コンプリート/達成)するかエクセルを使ってシミュレーションさせるなど、生徒に関心の高い素材で問題解決にあたらせたりしています。
そして、「発信」については、発信する際のリテラシーなどを考えさせ(例えば「ツイッター」で注意することは何か学ぶ)、文書による情報発信(ワードを用いてわかりやすい文章作成を目標とする)、プレゼンによる情報発信(スライドと口頭でどう効果的に発表するかをめざす)を行う授業を組み立てています。
プレゼンは人生を左右する重要スキル
今回は、プレゼンによる情報発信の授業を紹介します。
まず、「プレゼンとは何か」を1時間講義します。ここでは、プレゼンスキルの基本も伝えるのですが、何より、プレゼンは人生を左右する重要なスキルだということを伝えています。就職試験や入学試験、そして会社に入ってからもプレゼンが必要になる機会は多々あり、「プレゼンがうまくいくかどうかで人生の大事なチャンスが決まる」という話をしています。説得力を出すために私が社会人だったときの経験をもとに、「プレゼンが失敗し、契約が取れず、リストラが行われた」という話もしたりしています。
プレゼンの最大目的は“相手の心を動かす”こと。たとえばスティーブ・ジョブズは「自分が作ったこの製品を買わせたい」と思って数々のプレゼンに臨んでいたわけです。「そのプレゼンを聞いた相手が、自分が望む行動をしたくなるような工夫をしよう」ということを強調しています。
ワークシートやサンプルスライドで誘導
講義後の実習課題としては、「自分の好きな物を紹介する」「10年後の自分の仕事を紹介する」の2つを使っています。
ここでは、「自分の好きな物を紹介する」という題材で、どのように授業を進めたかを説明します。授業の流れとしては、パワーポイントを初めて扱うので、基本作業を教えるためにサンプルのスライド作成に1時間。そのあと個々のスライドを作成するのにクラスによりますが、3〜4時間。最後は全員に1分くらいずつ発表させて2〜3時間。合計で6〜8時間を使っています。
では実践させるためにどうやって助けるか。ここが手法のポイントになるのですが、まずスライドの大まかな構成は教員側で決めてしまいます。基本は「タイトル/概要/好きなところ/さらに知りたくなった場合の調べ方」の4点で、最初にサンプルを見せます。タイトルページでは紹介したいものの名前を挙げ、概要ページでは紹介したいものの内容が一言でわかるキャッチフレーズを書き、次にそのものの好きな点を3つ箇条書きにする。4つ目は先ほど申し上げた「相手の心を動かす」部分にも関わってくるのですが、「私が紹介したこれをさらに知りたくなったら、○○をしてみて」という形で作成するようにしています。
サンプルを用意するのは、短時間で基本的な操作を習得させるためと、プレゼンのストーリーを示すためです。30〜40分をかけてサンプルと同じ文章を打たせながら作り方を説明します。スライドのストーリーを誘導することで、どうすればよいのかがわからなくなることを避けています。また、ワークシート(※下記参照)に書き込めば、大体の構成ができるようになっています。
スライドの基本「一番言いたいことを一文で表せ」
スライド作成の基本として伝えているのは、「一番言いたいことを一文で表す」「文字は少なく。とにかくでかく」「3点ルール」の3つ。「一番言いたいことを一文で表す」というのはプレゼンターとして名を馳せたスティーブ・ジョブズの提言で、私も学生に面接の受け方を教えるときは「大事なことは最初に一言で言うべきだ」と伝えています。
2つ目の「文字は少なく。とにかくでかく」に関しては、プレゼンを聞く側は「文字が見えないなあ」と思ったら聞いてくれないという話をし、3つ目の「3点ルール」については「言いたいことは必ず3つに絞れ。それ以上のことを言っても聞き手は覚えてくれない」という話をしながら、これらを実践できるような授業を作っています。
キャッチコピーを作らせる
この3つをどのように実践させるか。「言いたいことを一言で表そう」と伝えるだけでは、多くの生徒は考えが進みません。ですから、まずはキャッチコピーを作ろうということで、その作り方を伝えます。自身で考えたやり方なので「大石メソッド」と名付けていますが、この方法を用いると誰もが簡単にキャッチコピーを作ることができます。
まず紹介するものの名前を書きます。次に「それはどこがいいか」を書き、さらに「それはどんな種類のものなのか」を書くだけです。この3つをつなげるとキャッチコピーができます。たとえば「iPhone 最高に使いやすい スマートフォン」「沖縄 行くと必ず元気になる 南国リゾート」と聞くと、何となくコピーになっている気がしませんか?ワークシートの2段目にこれを書く欄があり、ここに書き込んでいくだけでキャッチコピーが完成し、スライド2枚目の「概要」ができあがります。
話したいことを絞らせる
聴き手の心を動かすためには、余計なものを省いて、大事なところがびしっと刺さるようなプレゼンにしないといけない。その観点から言えば「いろいろ」「たくさん」はNGです。「この中で一番は何?一つだけ話すとすればどれを話したい?」と絞らせます。そうすると、焦点がはっきりした良い発表になっていく。さらに届けたい相手を絞るんです。たとえば「失恋したときにはこの曲を聴いてください」と最後のスライドをもっていくと良いプレゼンになります。そうした指導を一人一人机間巡視して行っています。
発表時は具体例やエピソードを入れさせる
発表のときに気をつけさせた主な点は2つ。1つは「話し言葉で話す」ということ。もう1つは「スライドに書いていないことを話す」ということです。後者に関しては昨年度はうまくいかなかったのですが、アドバイスとして「たとえば、を入れてみよう」「いつどこで好きになったかという自分に関わるエピソードを入れてみよう」と伝えたところ、今年度は劇的に改善しました。
褒めるときは、ルール名を連呼する
発表時には、1人ずつをとにかく褒めるようにしています。昨年度は「ここはもう少しこうしたほうがいい」「3点ルールが守れていない」と容赦なく批判したんです。そうしたら「先生にダメ出しされるために前に行くのは嫌だ」という生徒が増えました。これでは授業にならないので、褒めまくるように変えました。
褒めるときのポイントとして、まずはルール名を連呼しています。私は、基本ルールを覚えてもらうために、ルールに名前を付けています。名前をつければその内容も覚えやすくなる。「3点ルール守ってるね!」といえば、「こうすればいいんだな」と生徒が理解できる。さらに、スライドに書いていない言葉を話したことを褒めれば、それが大事とわかる。「この写真をごらんください」と手ぶりを入れたときにも褒めますが、それを次の生徒が真似したら「言われたことがすぐにできるとはすごい」ともっと褒める。こちらが「プレゼンとはこうあるべきだ」というイメージをもっていて、そこに沿ったことはとにかく褒める。それも指導の1つのポイントだと思っています。