研究5
デジタル情報の伝達と復元のしくみを体感!
iPadを用いた「デジたま講座」教材・教具の開発
九州大学大学院システム情報科学研究院 竹田正幸先生
スマホやパソコンなどのデジタル情報通信機器において、画像や文字、音声、映像などの様々な情報が「0」と「1」で表現されていることは、情報科学の基礎中の基礎ですが、デジタル情報処理の様子は「目に見えない」「さわれない」ため、なかなか理解しにくいものです。また、私たちは、0から9までの10種類の数字を並べて順序や数量を表す、いわゆる10進数表現を日常的に使用しており、これと同じ記号「0」「1」を用いたのでは、混乱を招きがちです。そこで、私たちは、これを「デジたま」と名付けた白黒の球で置き換えることで10進数表現と切り離し、中学生、高校生のみならず、小学生にもデジタル情報処理の基礎が理解できるように、デジたまを中心とした教材・教具の開発を行っています。
「デジたま」とは直径12mmの白黒の球であり、通信路に見立てたアクリルパイプの中にデジたまを流す演習などを通して、デジタル情報処理の原理を体験的に学べます。
デジたま講座は主として以下の4つからなります。
(1)情報をつたえる (導入部)
(2)ころころファックス (画像情報を送る)
(3)ころころトンパ (文字情報を送る)
(4)ころころミュージック (音楽情報を送る)
ファックスの原理を転がして体感
デジたま講座(2)の「ころころファックス」では、ファックスを例にとって、白黒2値画像のデジタル表現→伝送→画像の再現という流れを体験させます。
まず、生徒は、用意された絵の上から正方形の白黒のタイルを敷き詰めて、16×16のドット絵に変換します(デジタル表現)。
次に、この絵の各行をデジたま16個の並びに置き換えて、アクリルパイプの中に流して相手に送る、ということを16行分繰り返します(伝送)。
受信側は、送られてきたデジたまの順番通りにタイルを並べることで、絵を再現します(画像の再現)。
iPadを用いて作業時間の効率化
16×16=256個のデジたまをアクリルパイプに流して送るには、かなりの手間がかかり、これによってデータ量の多さを実感できます。しかし、最近の児童・生徒たちは「デジたまを並べる」「タイルを並べる」等の手先を使った作業に不慣れで、演習全体に多くの時間がかかってしまいます。そこで、タイルを並べる作業についてはiPad上の操作で置き換えることにしました。16×16のマス目をiPadのタッチ操作で白黒に塗り分けてゆくのです。
また、最近では家庭でファックスに触れる機会が減ったことから、代わりに写メール等を取り上げ、画像のデジタル表現を題材とした「ころころピクチャー」に変更しています。これにより、作業時間が短縮され、授業2コマの枠内に収めることも容易になりました。
カラー画像の情報通信の原理も転がしてわかる
デジたまとアクリルパイプを使って、カラー画像の表現の学習も可能です。
カラー画像を扱う際は、色のついた球を送るのでなく、白黒のデジたまの並びを送ります。たとえば、デジたまを3個の並べ方は2×2×2=8通りありますから、8通りの色を表現できます。そこで、演習では8色を用いています。
送信側は、あらかじめ用意されたカラーコード表の中から色のコードを調べ、○○●|〇●●|・・・といったように送ります。受信側は、届いた順に、カラーコード表を見ながら、〇〇●は水色、〇●●は白色というようにカラーブロックを置いていきます。こうすることで、カラー画像の送受信のプロセスを体験できます。
音楽を伝える原理もデジたまで
デジたま講座(4)の「ころころミュージック」では、デジたまを使って音楽を伝える体験を行います。ペーパーラウンドオルゴールを用います。
まず、音を鳴らすタイミングと、音の高さをデジたまで表し、これを送信します。
受信者は、それをもとに、オルゴールの専用シートにパンチで穴をあけ、それをオルゴールにセットし、ハンドルを回すと音楽が聞こえる、という流れです。
これらの教材は、「0」「1」のデジタル信号をデジたまで「見える化」「さわれる化」し、さらに作業を通じて、表現、伝達、再現という流れを実感できるのが特徴です。
デジたま講座は、これまで、アンプラグド、すなわち、情報通信機器を使わない方針でしたが、アンプラグドな教材には「具体的な情報通信機器にどのようにつながるかがわかりにくい」という指摘があります。今回、iPadを前面に出し、iPadによる処理の一部分だけをアンプラグドな教材で置き換えたことにより、この問題を解決できたと考えています。
詳しくはこちらをご覧下さい。
「デジたま講座 ~転がしてわかるデジタルのしくみ~」
http://digitama.i.kyushu-u.ac.jp/
※本記事は、日本情報科教育学会第6回全国大会(2013年6月29日・30日、東海大学 高輪キャンパスにて)でお話しされた内容です。