高校生からの提言、これからのネットのスマートな使い方
~「高校生ICT Conference2014」 最終報告会
~小中学生や大人に向けてネットの使い方を考えた高校生の意見を、省庁の担当官にプレゼン!
「高校生ICT Conference(以下、ICTカンファレンス)」は、インターネットを最もよく使う高校生自らが、当事者としてネットの使い方やモラルについて話し合い、知識・経験が不足してトラブルに巻き込まれる小中学生や、ネットがわからない大人に向けて、アドバイスや知識を提供することを目指します。これまで大人が形成してきた情報化社会とそのルールにあって、次世代の社会を支える高校生が、自ら考え、他者の意見を聴き、議論し、意見をまとめ、発表することにより、将来のインターネット社会に臨む環境整備にもつながるのです。
今回のテーマは「これからのネットのスマートな使い方」。ICTカンファレンスは、まず、全国5つの会場に44校、221名の生徒が参加して、第1回「小中学生に伝えたい情報モラル」(2014年7~9月)と第2回「2020年のICT環境を創造する」(同8~10月)の2回の討議を行いました。そして、各地区と沖縄の代表の生徒が、11月に東京でサミット「考えよう!これからのスマートなネットの使い方・あり方」の熟議を行いました。
そこで出た意見をまとめたものを、サミットに参加した生徒から代表の2人が12月16日に内閣府・文部科学省・総務省を回り、最終報告を行いました。内閣府では、「青少年インターネット環境の整備等に関する検討会 第26回会合」で、文部科学省と総務省では「高校生ICTカンファレンス最終報告会」を開き、インターネット環境整備の担当者にプレゼンしました。
今回は、内閣府・文部科学省・総務省での高校生の発表と、各省庁での意見交換を紹介します。
<ICTカンファレンスの詳しい説明はこちら>
・report 「高校生ICT Conference 2013」
・スマートフォンの活用法 高校生熟議 in Osaka&Tokyo
Part1 最終報告
高校生からの提言 教科「情報」とは別の情報教育の導入を!
小中学生がネットを安心・安全に使うためのポイント
私たちは、ネット上でも「思いやり」が大事であり、小中学生にそれを伝えたいと考えました。
自分の発言や行動を相手がどう感じるか、どうすれば皆が気持ちよく過ごせるかを考えること。これは人と接する上でとても大切なことで、これはネット上でも変わりません。むしろ、ネットで人とつながる時こそ必要なことだと思います。
そして小中学生がネットを安心・安全に使うために、知っておくべき伝えることを5つにまとめました。
- 「ネットの仕組みと怖さ」…ネットは世界につながっていて誰でも世界に情報を発信できます。しかし、その裏で危険もまたたくさんある
- 「個人情報の大切さ」…小中学生には意外に知られていませんが、身長・体重も個人情報です。こういった個人情報を、ネットにむやみに書かない
- 「思いやり」…ネット上では相手の顔が見えないからこそ、相手がどう感じるか、何をしてはいけないかなど、思いやりの気持ちが一層大切。「他人に迷惑をかけない」など、ネットを使う時のルールを決めて、それを守るのも思いやりである
- 「依存」…無意識に携帯をさわってしまうなど、自分で気がつかなくてもネット依存になっている人が少なくない。でも、それは自分が気づき、行動すれば改善できる
- 「フィルタリング」…フィルタリングは、有害サイトをブロックしてくれる。誤って有害サイト行ってしまうことを防ぐことができる
これらを小中学生伝えるには、学校に高校生が出前講座をして、自分達の経験を伝えるのがよいと考えました。私達は、実際に高校生6人で、全校300人の中学生を相手に講演をしました。同年代の私達が話すことで、中学生も聞きやすかったと思います。
私達は中学生に講演をしましたが、自分自身スマホを使いすぎていることを自覚しています。だからこそ、このようなことに自分自身で気をつけることが大切だ、と伝えました。今後は、ネットの上手な使い方のハンドブックのようなものを作っていけたらよいと思っています。
また、実際に通信会社やゲーム会社など企業の方に来ていただいて、大人の観点で話をしていただくことも有用です。専門の方による使い方や注意点などの話は説得力があるし、法律や社会のルールなど大人の視点で話をしていただくのを聞くのは、とても大事だと思います。
学年別の教科書を用意し、ディスカッションを取り入れた情報教育をすべての学校に
私たちはまた2020年のネット環境はどうなっているかについて話し合いました。2020年にはさらに新たな端末が出てきて、ネットは今よりももっと身近になっていると思います。そのような時代に向けて、ネットについての正しい知識や仕組みとともに、便利さの陰にある怖さを教えることが必要になると思います。
ネットに対する意識を変えるために、ネットには便利な面と危険な面の光と陰があること、そして相手に対する思いやりの心が大切であることを知ることが必要です。この2つを身に付けるためには、ネットの使い方の教育が必要です。
そこで私たちの提言は、「学校での情報教育の導入」です。2020年までに、すべての学生が情報教育を受けられるようにしてほしいと思います。情報教育とは、高校の必修の「情報」とは別に、知識やモラルを中心に学べるものです。そのための教科書や授業内容を整えることが必要になります。
2020年はオリンピックの年です。それに向けて情報通信の環境が整備され、新しい情報社会ができるきっかけになる年だと考えられます。だからこそ、そういった教育をきちんと行って、ネットや端末を安心・安全にうまく使える人を増やす必要があります。
まず年代に応じた教科書が必要だと思います。国語や算数のように、学年別にわかりやすく段階を踏んだものがほしいです。小学生には知識をわかりやすく説明し、中学生はちょっと難しくなり、高校生には自分達で考えさせるようなものがあるとよいと思います。
また、教科書の内容は、文章だけでなくイラストを用いて頭に入りやすい内容にするのがいいと思います。
週に最低1回というのは多いかもしれませんが、大事なのは、国語や数学のように、どの学校でも同じ内容・レベルの教育が受けられることだと思います。これから情報化がどんどん進む中で、情報の教育が進んでいる学校は知識があり、そうでないところは何も教えられないというのでなく、国語や数学のように、どの学校でも同じレベルの教育が受けられるようにすることが必要になります。知識の上に技術、そしてモラルが重なることが本当の情報教育だと思います。
そしてディスカッションです。私達は、ICTカンファレンスの場をもらって、同年代の高校生とネット問題について議論して、新しい発見を生み出すことができました。しかし、このような機会はまだ本当に少ないです。こういった場では、コミュ二ケーションやプレゼンの能力もつけられます。これらのようなことを合わせた情報教育を、すべての子どもが学校で受けられるようにしてほしいです。
このように学年別の教科書を使い、情報の授業やディスカッションをしてネットの仕組みや知識を学ぶだけでも、学生の知識は変わってきます。それによって、ネットを有効に使え学生は確実に増えます。これこそが、情報教育の意義だと思います。
こういったICTカンファレンスなどで活動する高校生や企業の活動だけでは、どうしても限界があります。ぜひ学校で、教科書を使った情報教育を皆が受けられるようにしてほしいと思います。
Part2 内閣府での意見交換
ネットやSNSの使い方やマナーを教えてもらった経験はない
[出席の委員の方から]
皆さんは安全にSNSのやり取りができていると思いますが、実際使っていて不安ではないですか。誰かに安全な使い方を教えてもらった経験はありますか。
林姫穂さん(羽衣学園高校[大阪]3年) 中学生の頃からプロフがあったので、ネットで自分のことをさらすのは当たり前という感じです。安全だとは思っていませんが、ネットを使う以上危険があるのは仕方ないと思います。SNS等を安全に使える方法を誰かに教えてもらったことも、特にありません。
発表の中に、自分達の経験を中学生に話した、というのがありましたが、とてもよいことだと思います。今、ネットトラブルの防止を呼び掛けるために、実際にトラブルに遭った人の手記をまとめようと思っているので、その時どんな話をしたのか教えてください。
林さん) 中学生でガラケーを使い始めた頃は、誰かに教えてもらうわけでなく、よくわからないまま自分で使ってみて覚えていきました。そんな中でわかったこと、例えば中傷するようなことを書くと運営側から消されるけど、それは現実でダメなことはネットでもダメなんだということを伝えました。勝手にゲームの課金をしていたこともありましたので、「課金したらあかんで」ということも話しました。また、他人の迷惑にならないようにしようとか、誰が見ているかわからないというのも頭に入れておかなければいけないとか、さらには、ネットで出会い系サイト関係の事件を調べて蓄えて、その例を挙げながら「出会い系はまずいよ」という話をしました。他には、「ネット依存」と言っても中学生にはぴんと来ないので、「トイレにまで持って行ったり、ご飯中でもいじったりしているのは依存だよ」と具体的な例を挙げて話したら、わかってくれたようでした。
皆さんが初めてネットを使った時、使い方のルールやマナーを教えてもらったりしましたか。
佐藤多加良くん(大分県立別府青山高校3年) LINEがはやり始めて、半年くらいは、友達同士でけっこういざこざがありましたが、その後は皆が慣れてきて、あまりトラブルもなく、安定しているように思います。高校生は、相手のことが考えられますが、小中学生はそれができないから、トラブルを避けるのは難しいと思います。
林さん) 私が中3の時スマホが主流になり、流行っているから買ってもらいました。使い方もマナーも何も教えてもらったことはなく、使いながら「あ、これはやってはまずいな」ということを経験しながら学んだ、という感じです。
高校生の皆さんにとって、フィルタリングはあった方がよいと思いますか。
林さん) あった方がよいと思います。スマホはWiFi経由ではフィルタリングの効果がなくなってしまうという部分がありますが、それでも有害サイトにつながらないというのは安心できます。
佐藤くん) 小学生のスマホには、基本的にフィルタリングしてくおくのがよいと思います。それによって興味本位で有害サイトをのぞいたりできなくなるので、犯罪に巻き込まれることも防げると思います。
「情報教育の導入が必要」というのはとてもよいと思いますが、具体的にどのような内容が必要だと思いますか。
林さん) 情報の授業はエクセルなど技術的なものが中心で、情報モラルやネットに関する知識はほんど扱っていません。小中学校には必修の情報の授業がないので、道徳や技術家庭に組み込んでもいいので、皆が学んでほしいと思います。
佐藤くん) 今の高校の情報の内容は、ビットパーセカンドとか、専門的なところが多い割りに、インターネットをどうやって使うとかなど基本的なところは教えてもらっていないように思います。
Part3 文部科学省での意見交換
ルールは親が勝手に決めないで話し合ってほしい
子どものケータイやスマホを買う時に、保護者にどういうことを伝えることにすればよいと思いますか。
佐藤くん) 小中学生は、使い方を親と約束することが絶対必要だと思います。また、ルールは親が勝手に決めるのではなく、子どもと一緒に話し合って決めてください、ということだと思います。
林さん) フィルタリングの機能や使い方を、親が見て簡単にわかる資料がほしいと思います。窓口の販売員の人の説明は、口頭だけでは内容がよくわからないと思います。
子どもの立場からして、親にフィルタリングされたら、外したくなることはないですか。
林さん) 私はフィルタリングをかけられましたが、SNSがやりたかったので、親と相談して外しました。外す時に、親とちゃんと相談できればいいと思います。
文部科学省の担当官の方から) 「学校教育で情報教育をやってほしい」というのは、よくぞ言ってくれた、と思いました。文部科学省では、情報教育を進めるためにパンフレットを作ったり、講演をしたりするなどといろいろな活動をしていますが、それでも、文部科学省の取り組みだけでは足りないのです。
学校の先生の中には、情報分野が得意ではない先生がいるのも課題です。先生が指導するための教材や参考資料集を早急に作ることが必要です。
それだけでなく、スマホに詳しい高校生の皆さんがスマホのことを知らない人、小中学生、さらには友達や家族にも伝えてほしいと思います。
私たちが作る教科書や資料は、そうしても大人目線、学問ベースで作ってしまいがちです。作る大人としては、高校時代にスマホを使った人がまだ誰もいないからです。使う世代の心に響くにはそういう視点がいいのか、教えてください。
Part4 総務省での意見交換
小中学生には、フィルタリングと家庭内のルールづくりは必要
中学校への出前講座はとてもいい試みだと思いますが、やってみて難しかったことはありましたか。
林さん) 中学生が相手なので、飽きないように、簡単なネット依存度チェックや、講演の後に定着のための簡単なクイズを入れました。情報の教科書にも、ページごとに重要なことの〇×チェックとか入れるとよいと思います。飽きないし、意欲もアップすると思います。
高校生の皆さんから見て、スマホの使い方について「大人がわかっていないなあ」と思うのはどん
なことですか。スマホ販売の時、保護者に配布する注意事項の参考にしたいのでぜひ教えてくださ
い。
佐藤くん) 親はネットのことをわかっていないと言うより、知らないです。小中学生には、フィルタリングと家庭内のルールづくりは絶対必要だと思います。
総務省の担当官の方から)
私達総務省は、どうしても情報の基盤整備の方に目が行きがちです。私達もeネットキャラバンなどネットの使い方の啓発のための事業を行っていますが、もっとやっていかないとダメだと感じました。
皆さんが発表した「思いやり」は、リアルでの関係性でも大事ですが、ネットの世界でも重視すべきだと改めてわかりました。
現代のネットとの関わりは、年代別で全く違います。その中で、まさにデジタルネイティブで、今後社会の中核を担う高校生の皆さんにこそ、どんどん発言していただきたいと思います。
Part5 最終報告に参加して~高校生代表に聞きました
大分県立別府青山高校3年 佐藤多加良くん
Q1 今日のプレゼンでいちばん勉強になったことは何ですか。
「学校や企業だけではできないことがあるので、教育が変われば何とかなる。だから教育を何とかしてほしい」と提言しましたが、文部科学省の人に「教育にも限界がある」と言われたことです。「教育さえよくなれば全て解決する!」と思っていたけど、一つが変わるだけではダメで、三位一体で一つひとつが動くことで全体が変わっていくんだ、ということがわかりました。
Q2 ICTカンファレンスで意見をまとめるにあたって、どんなことを感じましたか。
高校生同士でこういう話し合いをするのはほとんど初めてでした。いろいろ違う意見が出てくるから、それをいい方向にまとめていくのは、たいへんだったけど、すごくいい経験になりました。
提言で出した「思いやり」という言葉について。僕は、思いやりというのは確かに大事だけどあまり深く考えていなくて、当然のことと思っていました。でも、話をしていくうちに、高校生なら相手のことが理解できるけど、小中学生には教えてあげないとダメなんだということがわかって、すごく勉強になりました。もっとこういう機会をふやして、多くの高校生に参加してほしいと思います。
Q3 自分のネットとの付き合い方に何か変わったことはありますか。
カンファレンスに参加して、初めてネットについて真剣に考えました。僕は、スマホを使い始めてまだ4か月ですが、アプリやラインが気になって、テスト期間中でもついつい手が出ることがありました。ネットに使われていたような気がします。
ここで学んだことを、少しでもまわりに発信していきたいと思っています。まず親に、スマホのことをもっと知ってもらいたい。そして、僕の妹が今中2で、これからどんどんスマホを使っていくことになるので、どんなことに気をつけたらいいか教えたいと思っています。
Q4 将来の夢を教えてください。
APU(立命館アジア太平洋大学)に進学が決まりました。英語を学んで、もちろんネットも使って外国とつながる仕事がしたいと思っています。
羽衣学園高校(大阪)3年 林姫穂さん
Q1 今日のプレゼンでいちばん勉強になったことは何ですか。
私達が出す一つの意見に対して、いろいろな角度から質問が返ってくるのに驚きました。やはり大人の発想ってすごいと思いました。
Q2 ICTカンファレンスに参加して、どんなことを感じましたか。
私は1年生からこれに参加していて、今回3回目ですが、毎回自分にないいろんな意見に出会えるのが楽しいです。今回、小学生の子達のスマホの使い方が話に出た時に、私達の頃は結構外で遊んだのに、今の小学生は友達とLINEで遊んでいるということがわかってびっくりしました。
先生や親もネットを学ぶ機会が必要だと感じています。教える側がトラブルの対処法がわからないと、子どもも相談しようと思わないからです。大人のためのテキストとかが、本当に必要だと思います。
スマホをめぐって、企業も省庁もみんなリンクしているけど、実際にいちばん使っているのは自分達です。私達が先頭に立って声をあげていくことで、皆が変わっていけばいいと思いました。
Q3 自分のネットとの付き合い方に何か変わったことはありますか。
この活動をしてきて、周りの人に恥ずかしくないような発信をするよう気をつけるようになりました。私の周りの子達には、既読スルーとか気にするひとはいません。「眠いから」とか「勉強するから」とか言えば、それでいいことになり、気を遣わなくていいです。今回出た「思いやり」はそこに通じると思います。相手への思いやりがあればトラブルがなくなることを、自分で実感しています。
Q4 将来の夢を教えてください。
法学部へ進学したいと思っています。大阪のカンファレンスには、京大の法学部の先生が来てくださってコメントをもらっていますが、昨年のカンファレンスで私達が「子どものスマホには強制的にフィルタリングをかければいい」とか「アプリの規約は長くてわかりにくいから漫画にしたらどうか」という意見を出したら、「法律的にダメだ」ということを聞いて、驚きました。
ネットの法整備はまだまだですが、いちばん使っている私達だからこそわかることがあり、いい法律ができるようにできたらいいと思っています。